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業界ニュース

 

 

VFX Struggle Against Reality

3月8日

 

VFX業界の葛藤:

オスカー授賞式で打ち消されてしまったスピーチからのメッセージ

 

 

2月24日、米ロスアンジェルスのドルビーシアターで開催された第85回オスカー授賞式では、アン・リー監督の「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」が監督賞、最優秀特殊効果賞を含む最多の4冠に輝いた。

 

ステージで最優秀特殊効果賞の受賞スピーチをしたのは、作品の特殊効果(VFX)を担当したリズム&ヒューズスタジオ(R&H)の特殊効果スーパーバイザー、ビル・ウェステンフォーファー氏。 

実はこの映画業界を代表するVFXスタジオは2月11日に、経営難を理由に破産保護申請をしており、従業員254人を支払い無しで解雇するまでに陥っていた。

 

ステージではスピーチのラップアップのサインの生演奏が施されるが、今回は誰もが予測しなかったジョーズのテーマソングが煽られて演奏され、ステンフォーファー氏が最後に残しておいたスタッフへ捧げるメッセージが打ち消されてしまった。 

“ Sadly, Rhythm &Hues is suffering serious financial difficulties now. … I urge you all to remember … ” 

氏は、功績をあげたR&Hが現在直面している業界全体の危機を伝えるつもりだった。 

この後、VFXスタッフの一同それに特撮に関わる来場者達が悲痛の声を後にして次々と会場を離れたことを、テレビの前の視聴者たちは知る由もない。 

 

最高監督賞を華やかなオスカー授賞式が開催されている会場の外には、R&Hの破産苦境をきっかけに400名以上の業界支援者が集まり、VFX業界の組織化の必要性を訴えるデモが行われていた。 告知なしで突然解雇された250人ものスタッフは2月15日、R&Hを相手取り労働違反を主張する集団訴訟を提起している。

 

本作でフルに登場するベンガルトラのリチャードパーカーや海にまつわるものは、全てCGの特殊効果が施されている。 

ストーリーが海に投げ出された救命ボートで展開されるため、R&Hの視覚効果が作り上げた世界観が全てだ。  

 

 

 

リチャードパーカーに関しては、誰もが本物のトラと疑わないだろう。 しかし、リチャードパーカーは、R&Hが作り出したフルCGダブリングが演技をしているのだ。 

リー監督は3DでいかにフルCGの動物がリアルスティック性の劣らないものになるかを非常に懸念していたというが、R&Hは見事に監督の希望を叶えた。 ライフ・オブ・パイはオスカーのほかにも 、Visual Effects Society Awards、3D Creative Arts AwardsなどVFXに関わる多くの賞を獲得した。

 

R&Hは2月13日に連邦破産法第11条の適用を申請し、Foxやユニバーサルからの受注を仕上げること、および雇用賃金請願を目的に、1700万ドルの融資を求めた。 

申請書類によると、ワーナーの「300: Rise of an Empire 」 (8月2日公開予定)、「Seventh Son」(10月18日公開予定) と 「Black Sky」(公開日未定)、ユニバーサルの「R.I.P.D.」(7月19日公開予定)、Foxの「Sea of Monsters」(8月16日公開予定)など、今年後半に公開予定の映画5作品の製作に関わっている。 

Foxとユニバーサルは発注分を納品してもらうための資金調達に前向きな姿勢を見せたが、ワーナーはR&Hに490万ドルの貸しがあるとし、プロジェクトに関わる資料をすべて返却するよう要求している。  1700万ドルを分割で受け取れれば、受注している分を全て納品できるだけの日数(75日間)は営業を継続できると見込まれ、法廷は2社のスタジオからの融資に承認した。 

またR&HはLegendary Picturesからも、「Seventh Son」の製作において500万ドルの融資を受け取れることになった。 

 

R&Hは、2009年から2011年の間、年間約1億600万ドルの利益を上げていたが、2012年は2250万ドルの損失に直面、昨年12月には貸借対照上の負債は約3380万ドルに達していたという。

 

今回のR&Hの破産の流れは、VFX業界全体の不安定な環境を強調している。 デジタルドメイン・メディアグループも昨年9月に破産宣告をしており、インドのReliance Media Worksと中国のGalloping Horseに買収され、事業を継続している。 カリフォルニアに拠点を置くVFXスタジオは、カナダやイギリス、インドなどを拠点に、低賃金や税優遇措置を生かしてサービスを提供する工房達に仕事を奪われ、Café FXやAsylumなど、すでに6社以上が廃業に追い込まれているという。  またオスカーを受賞した「ヒューゴ」やトム・クルーズ主演のSF映画「OBLIVION(オブリオン)」のVFXを担当したドイツのPixomondoも、デトロイトとロンドンにあった工房を続けて閉鎖している。

 

「アバター」、「トランスフォーマー」、「アメージング・スパイダーマン」など、特殊効果はボックスオフィスに年間数十億ドルを生み出している。

特殊効果は、なにもハリウッド映画だけでなくテレビ番組やCMにも見られる。 特殊効果を施していない番組のほうが少ないほどだ。 莫大な作業量となっている反面、スタジオ側の利益率は著しく下がっている。 

海外で低賃金や税優遇措置を生かしてサービスを行っている競合社との価格競争やVFXを追求する開発費用。 そしてまた、低価格の汎用の編集システムやレンダリングシステムが出回ったことで、中小スタジオは技術開発をしなくても品質のよいサービスを低価格で提供できるようになった。 これもR&Hといった、大規模スタジオの投資収益率が低下する理由だろう。

 

決められたVFXバジェットにも関わらず、監督の要求に応えられるまで、日数を重ねクオリティを追及するという職人魂もある。 「我々はアン監督の指示に従い、超リアルスティックに仕上げた。 3Dではよりディティールにこだわり、いっそうの存在感がある。 監督は、我々が(リチャードパーカーの)毛の改善をすることで追加費用を要求しなかったことに感銘を受けていた。」(ステンフォーファー氏談) http://www.awn.com/articles/visual-effects/life-of-pi-grabbing-cg-tiger-by-the-tail/page/1%2C1

 

R&Hは現在、投資銀行のフーリハンローキーをコンサルタントとして、破産から脱却するための手立てを行っている。 しかし現状のままでは、すぐにビジネスに復帰できたとしても、変わらぬ業界の圧力に直面しなければならないだろう。

 

オスカー授賞式の後、レポーターたちに囲まれたステンフォーファー氏は次のように述べている。 「我々は技術者ではなく、アーティストだ。 特殊効果は単純にボタンを押せば成せるようなものではない。 業界のビジネスモデルを変えていかなければ、我々の持つ芸術性は失われていくだろう。 ライフ・オブ・パイは、我々がアーティストであることを示してくれている ―このことを指摘したかった。」

  

 


 

All images and clips copyright © 2012 20th Century Fox.

 
 
 
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